『クラウゼヴィッツの暗号文』 広瀬隆 新潮社 評価X 要再読F

 <概要>
 クラウゼヴィッツの著作『戦争論』と絡めて、謀略史観的な世界の解析を行っていく。結論としては、CIAとKGBの陰謀によって世界は動いており、彼らは自己の利益の為に行動し、そして核による最終戦争は免れないものとしている。

 問題作。といっても内容はくだらない。問題は書き方。
 『戦争論』に書かれていることを真実としてみなし、凄惨な事実と上記の本の抜粋を重ね合わせることで、悲惨な現状分析を導き出しているのみ。この話に論理と呼べるものはほとんど存在していない。けれども、説得力は存在すると思う。レトリックとしての現実があまりに凄惨なものだからだ。その現実が正しいものかすらわからないけれども、その残虐さは人に目を覆わせるだけの力を持っている。その力が、怖い。
 これが本ならばまだいい。もしも、映像になってしまったらどうなのだろう。映像の持つ力というのは文章よりもパンチ力が強い。そして、文脈から切り離された映像というものほど扱いやすいものはない。湾岸戦争の油まみれの鳥はいい例だと思う。
 現在のワイドショーはそんなものなのかもしれない。怖い怖い。騙されないようにしないと。それを理解した、という意味では読んだかいがあった。
 ある種の文学作品として扱えば、それなりに面白いものなのかもしれない。デストピアだったっけ、楽園の逆を書く。あのノリ。ただ笑えないことにこの作者はこれを現実のものとして書いているし、出されている雰囲気も「これが現実だ!」と叫んでいる。
 広瀬 隆が好きだという奴とは友達になれそうもない。事実なれなかったし。