『三浦和義事件』

 『占星術殺人事件』などの御手洗シリーズで知られる島田荘司による『ロス疑惑』のノンフィクション。『占星術殺人事件』・『異邦の騎士』とかが結構好きな自分としては前々から目をつけていた一冊だったりします。
 中々、迫力のある本です。俺は、ロス疑惑の当時物心つかない年齢だったので、歴史的な事例を読んでいる気持ちですが、生でその報道を体験した人にはさらに衝撃的でしょう。なにしろ、報道を見ていることも冤罪作りの一環だったんだ、という弾劾が書かれているんですから。
 この本は三浦和義氏の弁護(というか代弁?)、マスコミ批判に加えて日本人論としての側面も強く持っています。道徳という同調圧力と見えない階級性から抜け出せ、と説こうとしています。ここらへんの意見は、近代の徹底を行えという宮台あたりの意見も思い出させます。
 どーなんだろうなぁ――と俺なんかは思ってしまうわけですが。まぁ、一般人の俺はそんなもん広めたいとはさらさら思いませんし、俺自身がそういう西欧ばりの近代人になりたいかっつーとそれもまた疑問ですし。たしかにシステム的にそれで問題が出てきているよーな気はしますが*1、だからと言ってそれを変えたいとはイマイチおもわないのです。たぶん、俺が幸せだから。思想を上げ底に使えと説いたのは浅羽通明でしたっけねぇ。俺も同意です。
 この本の真髄からずれた所で話をしてしまいました。この本の真価は徹底したロス疑惑の説明です。娯楽読み物としても、一章のマスコミ側の視点での違和感を二章の三浦和義氏の視点で覆すところなんかは面白く読めるんじゃないかと思います。京極夏彦ばりの900ページという厚みでしたが、二日で読みきれたのはその面白さに拠る所が大だと思います。
 でも、これは読み捨てにしていい本じゃないです。
 とりあえず、マスコミに興味がある知人にでも勧めてみますか――。

*1:この本では、例として、冤罪に加えて雪印の品質管理問題や住専とかもあがっていました。私的には感情的にすぎる北朝鮮拉致報道も含めていいかと