亡国のイージス

 前々から噂を聞いていてた『亡国のイージス』を読了しました。はじめの100ページちょっとは前日ぼーっと読んで「うーん、まぁまぁかなぁ」とか呟いてたのですが、今日の朝100ページほど読んだら手が止まらなくなり、結局昼過ぎまで電車に乗りながら歩きながら読んでました。駅から出た陽射しが眩しかったです。
 なんつーか、先を読みたいという衝動をこれほど与えてくれる作品も中々ないと思います。この作品は何よりも先に一級のエンターテイメント作品なんだ、ということをしみじみと感じました。二転・三転する展開も、場面の繋ぎ方も、キャラの感情も、全て読者の読み方を計算して考えられたとしか思えません。個人的には、政治家が揃って話が進まないシーンあたりの苛立ちの書き方、そしてその始末のつけ方(一応秘密)などには、舌を巻きました。どうすれば、読者がカタルシスを感じるか、理解してます。
 けれども、この本で目を引くのはそこだけではないでしょう。この作品のもう一つの側面であるともいえる強い思想性、です。再軍備を説き、現在の日本人の堕落を嘆いてみせるこの本は危険な本だとも言えます。ろくすっぽ構えを持たずに読むと危ないでしょう。俺も中学生くらいの時に読んでたら、危なかったかもしれません。今は、結構その手の本ばかり読んでるので「さて、どうだろうなぁ」とか思いますが。
 とりあえず、この作者が極端な方向性に転ばないことを祈ります。素晴らしいエンターテイメントを書ける作者が自らの思想性でその才を失う例は、田中芳樹一人で十分です。