『アントニオ・カルロス・ジョビン ―ボサノバを作った男―』

 『イパネマの娘』・『黒いオルフェ』などの有名なボサノバの曲を作った人がどんな人なのかがおぼろげにわかりました。エコロジストで、わりと精神不安定で、マスコミ嫌い、かなぁ。そういう表現で拾い上げられるものは常に、いろいろなものを逃してしまいますが、まぁ、話の種としてはそんなもんでしょう。
 しかし、不思議な伝記です。おそらく死後それほどたっていないときに書かれたものであること、書いたのが妹であったこと、などのせいでしょうが、驚くほど親族の死にかかわる話が多い。こうかんがえると伝記っつーもんも不思議ですな。その人すべてをあらわそうとすると、書き手の限界が出てくるっつーか。そして意識せずに読むと、それこそが事実のすべてだと思い込む。なんでもそうですが、一冊ですべてをわかろうとするほど危険なことはないですね。
 音楽的にはボサノバはジャズの影響で誕生したんじゃないこともよくわかりました。ただ、ジャズに吸収されていったようですが。
あと、ジョビンのアルバム聞きたいが、男ボサノバボーカルっていまいち惹かれないんだよなぁ。うーん。
 解説の最後のあたりが白眉かもしれません。
『世界にとってアントニオ・カルロス・ジョビンは一人しかいなかった。彼は生涯変わらず自分の好きな音を作り出すだけだった。その等身大の音楽が、世界中を夢中にさせた。そのおそるべき才能が彼の栄光と悲しみのすべてだったのだ』
 天才/パイオニアというものはそういうものかもしれません。創造性と再解釈とデッドコピーの海の中から、きっと伝説の後が続いていくのでしょう。