没原稿1「初めて」

 確かにちゃんのこんぺすれかなんかに投下しようとしてたやつな気がする。まぁ、所詮没だが。
 手元にはさりゅーさんとにけさんの感想があって、まぁその通りだよな、という。

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 出会いと別れは良くセットにして語られます。でも、心に残るのは大概別れではないでしょうか? お祭りに行ったときには、入った瞬間に広がる風景ではなく、去り際の名残惜しさが印象に残ります。家に戻った後も心の中は後悔で一杯です。あれも欲しかった、これも欲しかったなぁ、って。
 お姉ちゃんにそんな話をしたことがありました。お姉ちゃんは学校が終わるといつも私のところにきてくれます。寂しくすしている私をいつも慰めてくれます。
「何かドラマでも見たの?」
 第一声がこれです。昔から、お姉ちゃんは私のことをからかってばかりなんです。
 図星でしたけどね。
「真面目に答えてよ」
「そうかもしれないわね」
「もっと真面目にっ」
「じゃあ、何答えればいいのよ」
「お姉ちゃんの言い方には全然心がこもってないんですよっ。テキトーに言っておけば、栞なんてちちんぷいぷいだって考えてるのがミエミエですっ」
「考えてないわよ。大体、ちちんぷいぷ」「そうなんですっ!」

 お姉ちゃんのため息。これも、いつものパターンでした。お姉ちゃんは恥かしがりやさんだから、私が強引に訊いたという風にしないと答えてくれないんです。いじわるですよね。
 窓の外に視線をやりながら「そうね」なんて呟いてます。外は曇り空。雪でも降るかもしれません。もう十二月ですから。ちょっと楽しみです。
「ねえ栞」
「はい?」
「また今度までの宿題って事にしておいてくれないかしら」
「えー」
「思いつかないわよ。そんなのすぐになんて」
「嘘吐きー」
「ついてないわよ」
「ほら吹きー」
 もう一度、ため息。
「吹いてないわよ」
 
 お姉ちゃんはなんて答えるでしょうか? 私は楽しみに待っていました。いつもはすぐに忘れてしまう私ですけれども、この質問はずっと覚えていました。なんだか、ロマンチックですから。
 ――でも、結局私はその答を貰っていません。
 貰わないまま、この世を去ることになりそうです。
 
 不自由で短い人生でしたが、楽しいこともたくさんありました。お父さんもお母さんも私に優しくしてくれましたし、最後は相沢さんともお会いする事ができました。相沢さんには特にお世話になりました。今思い出しても、感謝の言葉しか思いつきません。意地悪な人でしたけど、不思議なものですね。
 そして、お姉ちゃん。
 本当に、お世話になりました。迷惑ばかりかける妹で、本当にすいませんでした。

 不思議です。クリスマスにこのことを知ってからは様々なことが頭に浮かびました。あれもしたい、これもしたい、あんなことでさえしていない。死ぬときは絶対に後悔したまま死んでいくと思っていました。ですが、今はそんな思いはありません。たった一つを除いては。

 ねぇ、お姉ちゃん。
 私、思い出したんだよ。はじめてお姉ちゃんと会った時のこと。
 嘘だと思うかもしれないけどね、ホントなの。
 私がお母さんに抱かれていて、ちっちゃなお姉ちゃんが私のこと見てるの。それで、私の頬に触れて、笑うの。
 こんな風にして出会ったんだね。私たち。
 このことを、お姉ちゃんに言いたかったよ。初めて会った時のことを知らないでさよならなんて、ちょっと寂しいよ。

 ――私はこのことを言えそうにありません。
 もう何も見えませんし、何も聞こえません。生きているのか、死んでいるのかも良く判りません。自分のことなのに不思議です。
 段々と、何も考えられなくなります。貧血みたいに、頭がふらふらします。
 こうやって、私という人間は消えていくのでしょうか。
 お別れも言えないで、死んでいくのかな。
 それは、悲しいな……。

 
 声が聞こえます。
 なんと言っているのか良く判りませんが、呼んでいます。
 私は目を開けました。そんな動作もひどくゆっくりにしかできません。
 誰かがいます。逆光で姿は良く判りません。でも、私には誰だかわかります。長い、長い付き合いですから。生まれた時には、もう傍にいましたから。
「…お……ねぇ…」
「栞!?」
 お姉ちゃんが私の手を握ってくれます。手は暖かく、その下に血が通っているのを感じました。
 ――ああ、生きてるんだ。
 そう思いました。
 私は伝えたかったことを思い出しました。
「お……ぼえ…て」
 違う。
 こんなことを、言いたいんじゃない。
「何? なにがいいたいの? 栞」
 お姉ちゃんは私の顔に耳を寄せます。
 私が、伝えたい事は。
「――」
「え?」
 お姉ちゃんが驚いた顔をしています。私は少し笑って見せました。
 
 お別れは寂しかったけど、ここからまた始めようね、お姉ちゃん。もう、私はこれまでの迷惑になる私じゃないから。これまでの後悔なんて、もういらないから。
 だから。
「はじめまして」
 
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 まぁ、没レベルだよな、というw