壬生義士伝

 やばい。泣きそうだった……。
 まずは、浅田次郎を称えておきましょう。どこの神さまだこいつ。30程度のキャラにしっかりとした人格を与えて書き分けて、しかも複雑怪奇に絡ませる。その絡ませる際に出てくるエピソードとかもしっかりと整合性を持っている。時間軸をめちゃくちゃにして読者に見せる順番もばらばらなのに、ぜんぜん違和感を持たない。それどころか、それで感動がさらに増す。神だ。
 ……今となってはそんな風に思いますが、読んでいる最中はまったくそんなことを思わないわけで。
 感じるのは、明治維新という生きづらい時代を駆け抜けた武士たちであり、そのなかでも特に頑迷に義の道を貫いて、不遇の中で死んでいった吉村貫一朗という一人の人物の悲哀と強さです。新撰組という武士道という形式にとらわれ死んでいった者たちの中にあって一人貧乏人の義の道――自分の家族を守ろうとする――を貫く彼は愚かしいほどに正直で。でも、時代はそれを素直に許すことはなくて。彼の周りの人間はそれに影響を受けながら、死んでいく。みなが死んでいく。時代は、変わっていく。義士達を残して。
 何度も涙ぐみながら読んでいました。こんな経験は、久しぶりです。
 浅田次郎読みてぇ。ひたすら。