なつやすみ

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 あつい夏。セミの夏。夏休みの夏。白いワンピースの夏。麦茶の夏。ついでに金つばの夏。海へ行く夏。くらい森と友達になれる夏。
 わたしは外に出かけた。
 たぶん、夏を探しに。

 夏は、さみしいんだけど、はずかしがりやだから一人で木陰にかくれている。暑さをふりまきながら。すこしかわいい。まさおくんみたい。
 そんな夏がそんな子だったらいいと思う。茂みがあれば、のぞきこんで、道を歩く。ひざこぞうをすりむかせた男の子をさがしながら。
 でもわたしが見つけられたのは、ミミズだけ。
 ミミズも嫌いじゃないけど、ちょっと細すぎるし、ぬめぬめしているような気がする。
 ごめんなさい。

 みーん、みんみん、みーん。
 セミが鳴いている。セミの命は短いとお父さんが言っていた。ずーっとずーっと土の中ですごして、やっと空の下に出たときには、もうあと一週間しか生きられない。
 わたしは立ち止まって、セミの声に耳を傾けた。
 さまざまな音が重なって、なんだかよくわからない音。うるさい、うるさい、でも、いやじゃない。気持ちよくはないけど、いやじゃない。
 わたしは立って、セミの声に耳を傾けていた。ずーっと。
 風がふく。音はとまる。わたしは風の音もいいな、と思った。

 暑い光の下をわたしは歩く。頭にはおかあさんに貰った麦わら帽子。わたしのお気に入り。どんなにお日様が頑張っても、わたしはくらくらすることはない。帽子のふちをかるくにぎってわたしはうれしくなる。
 今日はいい日。
 わたしはうれしくなる。

 足がじんじんしてきた。いつもならすぐに動くのに、いまはえいっと頑張らないと動かないかんじ。
 あんまり無理をするとよくないって、お母さんもよく言う。お父さんは聞くたびに、しょうがないな、と笑って、上着をお母さんにわたす。わたしはそれを見て、しあわせな気持ちになる。
 わかった、すこし休むよ、ってお父さんは言う。
「わかった、すこし休むよ」
 わたしはくすぐったくなった。
 座ろうと思ったけど、スカートが汚くなりそうだからやめる。
 ちょっと歩くと、ベンチと自動販売機。
 くまのかばんの中からお財布を。お財布の中からおかねを。おかねを缶に。
 がらん。
 コーラはむせてしまったけど、おいしかった。おとなの味がした。
 全部飲もうとして、やめる。おかあさんにあげよう。

 歩く。

 休む。

 ぼーっとする。
 今日は、空がきれい。
 おなかすいたな。

 ゆうやけ こやけに ひがくれて。
 こごえで歌いながら、坂をくだる。わたしの前をながい影が歩く。わたしはあるいているのかな。影についていっているのかな。
 さきにはわたしの町が見える。
 ちょっとだけいいにおい。お母さんがシチューを作ってくれているのかもしれない。たぶんそうだ。
 きっとそう。
 なんてお母さんにほうこくしようか。
 うーん。
 うん。
 そうだね。

 夏はかくれてなかったよ、って言おうかな。

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 はじめは美汐さんのすとれんじSSになる予定だったなんて口が裂けないと言えない……。やめてーさかないでー。