家族計画SS第一弾


 幸せ……そう、末莉はこの上なく幸せだった。学校では相変わらず一人ぼっちだったけれども、家に帰れば司が、家族が、好きな人がいる。これ以上の何かを求めるのは欲張りというものではないだろうか。
 そこまで考えて、末莉はばったりとちゃぶ台の上に倒れ伏した。
「どうしよう……」
 呟く末莉の傍らには大量の本があった。
 ちなみにカバーが濃いピンクだったりする。
 ちなみにルビー文庫もあったりする。でも実は新書サイズのほうが『濃い』。
 ちなみに、ページをめくると男同士の熱い絡み合いが見れたりする。
「ああああああああ、どどどどど、どこに隠せばーーーーーーッ」
 何かと錯乱するお年頃。



 『場所がないっ!』

 
 高山さんとは末莉よりも一つ上の先輩で、俗に言う『腐女子』である。『ヤヲイスキー』と呼んでも、まぁそれほど間違ってはいない。
 本日のお昼時。
 いつもと同じように屋上に行くと、彼女が重そうな紙袋を持ってきていたので末莉は警戒した。この高山さんなる女性はときどきとっぴな行動に出る。お弁当を10段ほど持ってきて、末莉に食べさせたり、アナタに必要なのは筋トレよっとか叫んで筋トレグッズを持ってきたり。大体何か持ってきているときは怪しんで間違いない。
 ――悪い人じゃ、ないんだけど。
 彼女はにっこり笑った。
「はい、末莉ちゃん」
 挨拶ナシでいきなり彼女は紙袋を突き出した。恐る恐る末莉はそれを受け取る。そして、紙袋の中をのぞきこんで、悲鳴をあげた。
「うひゃぁぁぁぁぁっ! すすすすす、凄いですっ」
「でしょー。前々から読みたいって言ってたの全部持って来たから」
「あー、『富士見シリーズ』が全部ある〜、『お金がない』もある〜……あれ? この雑誌は?」
「『野菜畑で捕まえて』が入ってるの」
「えーーーーっ、あれですかー。え、ほ、ホントに貸して頂いていいんですか?」
 にんまり高山さんは笑う。
「いいってコトよ。お互い助けあいでしょ?」
「ありがとうございますーーーーっ!」
 末莉は大喜びした。


 末莉は凹んだ。
 時計を見上げる。彼女の愛しのおにーさんが帰宅するまで大体あと1時間半程度である。昔はこの時刻は家にいて、夜に『ろんろん』へ向かっていたのだが、現在はシフトを変更している。それもこれも、夜のアレのためである。
 末莉はちょっぴり赤くなった。
「そそそ、そんなことよりもっ」
 だん、と机を叩いて立ち上がる。そして、タカのよーな目で部屋全体をじっと観察する。さらに観察する。もっと観察する。
 再び机に倒れこむ。耳から煙が出ている。
 視線を右に向けると本の山。ざっと30冊程度はある。塵も積もれば山となる。当たり前のことだが、本ならば塵の比ではない。非力な末莉は、持って帰るのに相当苦労した。
 問題は、これらをどこにしまうかである。仕まえる場所は台所の下や押入れくらいなのだけれども、それらは既に生活必需品や末莉の買い込んだヤヲイ本で一杯になってしまっている。トイレの死角や窓の外と言ったウルトラEも使用済み。どこをひっくり返しても30冊という大量の本を隠す空間などは存在しないのである。先ほどから家の中を三度ほど点検した。点検すればするほど読み終わったヤヲイ本を発見して恥かしくなった。
 まずい。
 段々とタイムリミットは迫ってきているのだ。非常にまずいのだ。
 けれども、解決方法は見つからない。部屋を何度探し回っても、頭をひねっても、麦茶を飲んで現実逃避をしてみても、隠し場所は見つからない。
 いっそ、机の上に放置してしまおうか。
 一応、おにーさんはこのことを知っているはずである。しかも、家中に隠してあるのだから、一つや二つはばれているに違いない。そーだそーだ。もういっそどかーんと机の上に置きっぱなしにするのが一番っ! 
 そして、そのままおにーさんにそれを目の前で読まれる、と。
 もう一人の自分の突っ込みにもれなく末莉は倒れ伏した。
 

 
 鍵の回る音。末莉は跳ね上がって、ドアのほうに急いだ。
「おう、ただいま」
「おにーさんおかえりなさい」
 今日の司はちょっと疲れている様子だ。 
「だいじょうぶですか?」
「ああ、ちょっと最近忙しいんだけどな」
 そう言いながら上着を脱ぐ。末莉は後ろを向いた。その間に司は服を着替える。別にすでにアレなんだから気にしない、というわけにもいかない。それはなんだか、恥かしい。
「ん?」
 司が何かに気がついたように声を出したので、末莉は思わずびくっとした。
「教科書、どーしたんだ?」
 いつもは、学校に必要なものは全てカバンに詰めっぱなしである。机に入れておくと時々読めない状態にされるので、毎日末莉は持ち運びしている。
「え、それは、えっと、あはは」
 そのまま司の視線は末莉のカバンへと彷徨う。安っぽいビニールのカバンはこれ以上ないってほどパンパンに膨れあがっていた。
 そのまま末莉へと視線が移る。疑いの成分が50%ほど。
「あはは〜」
 笑って誤魔化す末莉。
 結局、そこしか思いつかなかったのである。この上なく怪しいのは良く判っているけれど。
「今日の晩飯どうする?」
「あ、えーっとですねー」
 末莉にとって幸いなことに、司はそれには触れなかった。
 こっそり胸をなでおろす。



 夜。
 18禁はジオシティーズはアップできないので省略。



 夜と朝の境目、司は目をあけた。体を起す。忍び足で、台所へ向かい電気をつける。そして膨れ上がったカバンを取りに戻り、中を確める。
 ため息。予想通りだ。薄闇の中に数え切れないほどの本がある。
 一冊をめくってみると、初めのページから男と男が絡み合っている絵だった。激しい。激しすぎる。エロ本とあまり変わらないよなぁ、と思いつつ、さらに先をめくっていく。
 それは思春期の少年達を巡るストーリーだった。
 主人公は弱気な高校生、そしてその親友は容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能、男色趣味、というわけだ。これまで司が読んできた本のなかにもしばしばあったストーリーである。どーも、末莉はこういう王道ものが趣味らしい。
 さらにページをめくる。
 先もやはり王道的展開だった。友人に詰め寄られ、結局肉体関係を結んでしまう。そして、二人で中睦まじく暮らしていると、転校生が現れて……うんぬんかんぬん。
 うーん、お約束。ほぼ同様の展開を5冊は読んだ。
 司は本を閉じた。
 そろそろもう一度寝ることにしよう。明日も早い。
 本とカバンを戻し、台所の明かりを消すと、司は布団に再び潜り込んだ。横で眠っている末莉の後頭部をなんでああいうのがすきなんだろう、と思いつつ眺める。そのうちに睡魔の気配を感じ、司は目を閉じた。

 タヌキ眠りをかましていた末莉は声をひそめて泣いた。
   
 終われ。



 末莉ファンに軽く殺されそうなので雑記でUPしてみたり。