『アフターダーク』

 先輩に勢いで貸してといったら、本当に貸してくれました。あまり期待せずに読み始めました。電車の時間が潰れました。家に帰っても読みすすめました。読み終わりました。
 意外なことに――最近の春樹作品がことごとく肌に合わない俺にしては本当に意外なことに――面白かったです。テクニカルな視点(文体)とかはさして興味を惹かれなかったんですが、単純に内部で語られる話であるとか、総合した新宿(?)の雰囲気であるとかがどうしようもなく好きです。なんでだかわからんが。
 ちょっと買ってもいいかな、と思った。いつかは。
 春樹さんはきっとなにか書きたいものを見つけたんじゃないかと思います。方法論はこれまでどおり断片をごちゃごちゃに混ぜ込んだものなのだけれども、なにか昔よりも中核的なものがはっきりと存在していることを感じさせます。昔の輝きはまったくないけれども、それはそれで好きです。もう50過ぎてるんだから、こういうのかいてもいいでしょう。
 なによりも、高橋の前でエリが笑うシーンが好きです。なんつーか、非現実と現実が危ういところで重なり合うような感覚がたまらなくぞくぞくしました。いい。凄く、いい。
 誰かに電話したくなりました。してもしょうがないからしないけど、でもしたいなぁ。不思議。